「美術を見る愉しみ」とはなんでしょうか。これは、非常にむずかしい問題です。人によってさまざまな考え方があり、唯一の答えが導き出せる性質のものではありません。

　たとえば、絵画の場合、画面の上に表出された、形態や色彩、量感や対比や運動などの相関関係を総合的に感得し、自らが快いと思えることができたなら、「美術」を愉しめたということになるのでしょう。

　しかし、なにを快いと感じるかということも、見る人ひとりひとりによって異なるものなのです。その人の生まれ育った環境や、それまでの経験、そのときどきの体調や精神の状態などによっても左右されてきます。また、年齢を重ねてゆくことにより、以前には理解できなかった作品が分かることもありますし、逆に、それまでは面白いと感じていた作品が物足りなくなることもあります。

　このようなことを前提とすると、結局のところ、さまざまな種類の優れた作品と数多く出会うことが、「美術」を愉しむための第一歩なのであり、余計な言葉や説明などを介在させず、作品のありのままのかたちと、正面から真摯に向き合い続けることでしか、その「愉しみ」を深めてゆく方法はないと言えるのかもしれません。

　今回の展覧会では、小杉放菴記念日光美術館が所蔵作品の中から、複数の作家による多様な技法を用いた作品を選び出して、一堂に御紹介します。日本画・油彩画・水彩画・版画といったいくつもの技法や、それぞれにテーマも異なった作品が展示されている空間の中で、じっくりと個々の作品と向き合い、まずは、自分の興味や関心のあり方を見付けていただくことができれば幸いです。